香害という新たな公害
近年、香水や洗濯時に香りが強く残る柔軟剤などの香料に反応して体調を悪くする化学物質過敏症の患者が増えているという。
2018年6月にシャボン玉石けん株式会社が、新聞の主要紙に「香害」に関する全面広告を出したことで、一般レベルにも認知が広がりつつあるようだ。
受動喫煙問題と共通する規制困難な構造
香害問題は受動喫煙問題と共通点が多い。
受動喫煙問題はタバコ自体が合法であるため、その規制は困難を極め、ようやく2018年の改正健康増進法成立によって対策の第一歩を踏み出した。
香害問題も受動喫煙問題と同様、「個人の感じ方の違いとされ健康被害の問題と捉えられにくい」、「実質的に規制する法律が整備されていない」といった特徴がある。
過敏症と鈍感症はどちらが正常なのか
前回の記事で、「喫煙者は嗅覚障害のリスクが1.6倍になる。受動喫煙にさらされた日本人の嗅覚が衰えているのではないか」と指摘した。
幸い筆者は、まだ健康を害するほどの化学物質過敏症ではないが、タバコの煙を避け、柔軟剤を無香料の商品に変えてからは、以前より嗅覚が研ぎ澄まされる身体の変化を実感している。
この変化は神経過敏化ではなく、人間が本来持つ感覚の正常化と言えるだろう。
感受性の程度問題とも捉えられる
シャボン玉石けん社長と化学物質過敏症診療医師との対談で、「鈍感症」という用語が出てくる。また、化学物質に過敏なのは自然なことで、感受性が高いだけではないかというやり取りがある。
宮田幹夫さん|対談コーナー|無添加石けんの「シャボン玉石けん」
社会からタバコの煙や無用な化学香料がなくなれば、化学物質過敏症は病気とは言えなくなる。むしろ、それらのニオイに反応できなかった「鈍感症」の人々の治療が必要になるかもしれない。
認知され始めたばかりの「香害」
受動喫煙は科学的に「有害」と判明してから、とても長い年月にわたって放置され、未だに撲滅の目処が立たない。香害も社会に広く認識されるまでにはまだ時間がかかると思われる。
それでもまだごく一部ではあるものの、日本の自治体で「香料自粛」の取り組みが始まっている。今後、人工香料の人体への影響が科学的に明らかになってくれば、徐々に対策は進んでいくだろう。
悪目立ちする中高年男性の香害
以前は、公共交通機関のいわゆる香害といえば、中年女性の過剰な香水のイメージがあった。この問題については、自粛ムードが広がったのか強い香水のブームが終わったのか分からないが、一時期よりも改善されたように思う。
一方で、中高年男性から強いケミカルな香料を感じることが多くなった。
これは加齢臭に対するネガティブイメージの定着や強い香りの残る柔軟剤の普及が理由のひとつとして考えられる。
もうひとつは、すでに喫煙や香害、加齢によって嗅覚が衰えた中高年男性の誤ったニオイ対策が原因ではないだろうか。自分では悪臭の質や程度が感知できないから、より強い芳香剤で体臭を消そうとしてさらなる香害を引き起こしている可能性がある。
社会的な解決策が必要
見てきたとおり香害の問題は、自分ひとりが正常な感覚を取り戻しても「過敏症VS鈍感症」の構図になってしまい解決できない。
時間はかかるだろうが、社会から無用な人工香料を減らして、街に暮らす人間の嗅覚を取り戻す必要がある。
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